連結ピンモデルとしての新撰組

リーダーシップ論で有名なR・リッカートは、民主型リーダーシップを発揮するための組織構造として、重層集団型組織モデルというものを提唱している。これは組織ユニットのリーダーは、そのユニットにおけるライン長としての機能を発揮すると同時に、上部組織のスタッフ機能を負うというもので、上部組織と下部組織をつなぐピンの役割を持つということから、連結ピンモデルともいわれている。連結ピンとして上部組織と下部組織双方の情報を掌握し、有効なマネジメントを実施しやすい体制とすることができる。

実は、このリッカートの連結ピン組織を彷彿させる日本史上に登場する組織がある。新撰組である。新撰組の組織は、局長(近藤勇)の下に副長(土方歳三)がいて、その下に並列で小隊の組長が並ぶ。組長は、沖田総司、永倉新八、井上源三郎、齋藤一、藤堂平助、原田左之助といった多摩の試衛館時代からの顔が並ぶ。この小隊組長は、「副長助勤」とも呼ばれていた。つまり、副長である土方歳三を支え助ける役割ということだ。副長という呼称ではあるが、これは例えば副社長、副部長などと同じような、局長の補佐役という位置づけではない。土方は実質的に実務を切り盛りしており、ライン長であった。従って組長は上部組織ライン長である副長のスタッフ機能を兼務したと考えられなくはない。これはまさしく連結ピンの役回りである。
司馬遼太郎によれば、土方歳三は組織論者であり、事実、新撰組は極めて頻繁に組織構成の変更を行った。彼が辿りついたところが、学者が提唱するような極めて現代的組織だったと考えれば、新撰組というものが歴史ドラマの単なるヒロイズム的存在というだけでなく、現実的に有効に機能した組織集団であったという事実が浮かび上がってくるのである。