古い組織と新しい組織⑧

組織が成熟していないと組織知を形成できないという事例を挙げてみよう。

前回でも述べたが、小さい組織から成長していく過程で外部から高い専門的知識を有した者を組織内に取り込み組織知を補おうとするのが一般的な組織行動原理だろう。しかし、それをしたからといって即、組織知が備わるわけではない。個人の持っている知識イコール組織知ではないからだ。組織知にするためには、一定の組織構成員がその知識を、前向きに理解してその知識の有効性についての認識を共有することが前提となってくる。税務や労務に関わる法律などについてはその専門的知識保有者に反対意見を述べることはまずないので、通常こうした専門知識は組織知として落ち着いていくことが想像できよう。問題は、組織目的をより効率的、効果的に果たすためのスキルを上げるための知識(前回述べたマーケティングや生産技術、経営運営方法などに関する知識等)に対しての組織の受け止め方に関わる。これについてはハードルが高い。なぜなら組織運営方法に関することは、法律など社会的ルールの知識と違って絶対というものがない。どうしても見方に幅が出てしまう。そうするとどうしても従来から組織に所属している者にとっては、経験値からの判断を先行させてしまう。これは悲しいことだが人の性として致し方ないことだ。特に従来からいる者の方が職位が上の場合が多いと思われるので、彼がノーと判断をした場合には、新たに参加した者が持ち込んできたスキル的知識はその時点で組織に無用のものになってしまう。つまり組織知とはなりえないわけだ。こうしたことは決してレアケースの話しではない。新興の組織にとってはむしろかなり頻繁に起きうる事象である。組織がある程度成熟してくるとざまざまな意見を持つ者が存在するので、新知識に対してノーという判断決定前の対論、つまり支持的見解も出てきて潰される確率が下がるのであるが、未成熟であるといわゆる「声の大きい」権限保有者の独断的判断が横行しがちなのだ。これは必ずしも経営トップのことに限らず中間層でも十分に生じる話しなのである。