オリンピックにおける組織力の考察

リオデジャネイロオリンピックは、メダルラッシュに湧き、久しぶりに元気な日本を見られた気分を味わえた。個人戦も良い成績であったが、団体戦、リレー、ダブルスなどの組織プレイも頑張った。この団体戦等を見ていて、“組織”というものを改めて考える機会となったのでその感想を書きたい。
団体戦でメダルを獲得したのは、男子体操、男女の卓球、シンクロナイズドスイミング、また、ダブルスやリレーでは、女子パドミントンの金メダルや男子400Mリレーの銀メダルが目を引くものであった。
一般的な組織競技といえば、我々がすぐ思い浮かべるのは、野球やサッカー、ラグビーなど、人数規模が大きい中で、複雑なルールに基づいて、密接な連携、協業を実現しながら勝利につなげていく種目である。そういった意味では、今回メダルをとった中で、一番、“らしい”競技は、シンクロナイズドスイミングだろう。非常に複雑な動きをシンクロナイズ(同期)させるこの競技は、まさにチームに一糸乱れぬ統制が鍵を握ることとなる。
一方、男子体操や卓球の団体戦は、団体といっても、それぞれ個人種目の組み合わせであり、ひとりひとりの頑張りが前提となるものだ。ただし、これらもやはり個人ではなく組織プレイであるには違いない。アメリカの経営学者チェスター・バーナードは、組織の定義付けの中で、成立するための3要素を「共通目的」「協働意思/貢献意欲」「コミュニケーション」とした。つまり、組織として共通の目的をもっていること、お互いに協力する意思をもっていること、そして、円滑なコミュニケーションを取れることの3要素が揃って初めて組織といえるというものである。男子体操や卓球の団体戦は、いずれもこれらの3要素を有しているものと言えよう。従って、これらの団体戦も当然ながら組織競技となるわけである。
ところで組織力という言葉を考える上で、男子400Mリレーは私の中で注目度合いNo.1であった。構成メンバーである4人のうち、個人戦でファイナリストになった者も、9秒台を出したものも誰ひとりいない。他のチームは、9秒台を多数擁しての布陣をとっていることから、数字を見ただけでメダルを取るのは難しいはずである。しかし結果は、ウサイン・ボルトを擁するジャマイカには及ばなかったものの、陸上王国のアメリカに競り勝っての銀メダル。どこに勝機があったかといえば、それはバトンの渡し方ということである。つまり、バトンの受け渡しのトレーニングに“協働意思/貢献意欲”のすべてを注力したことで、個人のパフォーマンスの和を上回る結果を導いたのだ。一人ひとりでは達成できないものを実現するために組織をつくることからすると、まさにこれは究極の組織力発揮ということになるまいか。組織というものを考える上で、非常に興味深い事例であった。