人材育成で「型にはめる」ことの大切さ

平成24年に亡くなった歌舞伎役者の中村勘三郎は、芸事について、次のような言葉を残している。

「まず型にはめてみよう。若い人はすぐ型破りをやりたがるけれど、型を会得した人間がそれを破ることを『型破り』 というのであって、型のない人間がそれをやろうとするのは、ただの『かたなし』です」

名人と言われた人の言葉なので、とても重いものがある。

 

この着眼点は、芸事も仕事も一緒だ。言い換えれば、基礎的なスキルが身についていなければ、応用的なスキル・技能には発展しないということである。勉強やスポーツ、楽器の演奏なども同様のことが言えるだろう。算数でも四則計算をしっかりと身につけないと応用問題は解けない。楽器も、同じフレーズを繰り返し練習していくことでプレイを身体で体得していくと、グンとスキルアップする。
仕事も最初のうちに、基礎を固めることができれば、あとからの伸び方が違うということはケースとしても良くあることだろう。

自分の経験を多少申し上げる。自分は新卒で小売業に入社したが、入社直後から売場にいる間は、毎朝、「接客10大用語」なるものを唱和させられた。「いらっしゃいませ」などの10個の接客用語を、頭を下げながら大きな声で発生する。来る日も来る日もこれが朝のルーティンとなっていた。はじめはこんなことやって意味あるのかと感じ、嫌々ながらのもだったけれども、20代を通してこれを続けるうちに、無意識レベルの行動となり身体に染みつくものとなった。これはまさに「型」にはめた行動だったと思うし、その後、営業トークや顧客との会話をする際の基本となりえた。お陰で、柔らかい言葉が自然と口からでてきて(「型破り」の段階)、今でも顧客つくりなどに大変有利なスキルとなっている。
このようなことは仕事をする上ではどのような職種でもあるものだと思う。

職業訓練・人材育成としては、もちろんOFF-JTも重要な要素であるのは間違いないが、OJTの中で、「型にはめる」作業や言動、行為などを、意識的に組み込んでいくことは、基本を身に着ける上で欠かすことのできない教育コンテンツである。「型にはめる」行為は、あまり楽しいものではないことが多いだろう。むしろつまらない場合が大半だ。でも、それを我慢して継続していくことが次のステージに上がるためには必須となる。まさに「継続は力」である。最近は新卒で入社してくる者の、入社間もない離職が増えているという。概ね「こんなつまらないことをやらせて」という想いをもって、辞めてしまう者が多いのだろう。自分自身もそうだったので、そうした気持ちは理解できなくもない。でも、それが理由で辞めるのであれば、その新人にとってももったいないことだ。彼らを離職させないためには、以前のように「俺の背中を見ろ」ではついてこないだろう。「今、やってもらっているその作業、行為は、つまらないように感じるかもしれないが、それが糧となり、こんなことができるようになるんだ」ということを具体的にイメージさせていくことが今の時代は重要だ。その際には、冒頭で記した中村勘三郎の言葉を添えて頂けるとよろしいかと思う。