新型コロナと雇用保険料②

前回でも申し上げたが、「雇用調整助成金」についても、収支感覚が完全にマヒしたものと言わざるを得ない。雇用調整助成金は、不況期であっても雇用維持を努力する事業主に対しての経済的支援を目的とし、第1次オイルショックのころに制定され、リーマンショックなど過去の景気後退時にその役割を果たしてきたものである。そして、今回の新型コロナ感染への対応としては、中小企業に対しては、受給額を賃金の100%補填(上限15,000円・解雇未実施の場合)にするなど、大幅にその要件を緩和しての対応となった。また、並行して雇用保険の被保険者となっていない者に対しても、「緊急雇用安定助成金」というものを作り、社会保険の常識枠を超えた対策を講じてきた。

たしかにこれらの対策は、2020年当時で世の中が大きく混乱する中では、その機能を発揮してきたと思う。しかしながら、この要件緩和措置は、コロナ禍が日常に組み込まれた2021年以後も(多少の条件変更はあったが)ずっと維持されてきており、最終的に本来のレギュレーションに完全に戻したのは2023年4月となる。

この3年間、大変多くの企業が、この要件緩和版雇用調整助成金を活用してきた。それで本当に労働者の雇用維持が実現されたところももちろんあるだろう。しかし、相当数の企業においては、それが無くても十分に雇用維持できるだけの支払い能力を有しながら、「この機会、せっかくもらえるのだから」という考えに基づき、支給申請してきたのが実情だ。いわゆるモラルハザードが生じてきたのは明らかである。当然ながら原資はどんどん目減りしてきた。2020年度中に雇用安定資金口の残高は完全に枯渇してしまい失業等給付口からの借入状態となる。その失業等給付口の方も急速に目減りをし、2020年の雇用保険臨時特例法により、一般会計から1.7兆円の繰り入れをしてきた。つまり、税金からの投入がされてきたわけだ。まさに大判振る舞いが続き、コスト意識が“ゆでガエル”状態になってしまっているように見える。

また、既述の「緊急雇用安定助成金」という、被保険者でない者に対する支給についても疑問が残る。本来の保険給付の姿とは異なるものであり、被保険者から見ると公平性を欠くものに映るはずであり、こちらもモラルハザードになっていると見てよい。

もうひとつ、俯瞰して課題提起すると、これら一連の助成金により、辛らつな言い方をすれば本来は潰れるべきはずの低収益企業が、そのまま温存されてしまったという点も、日本経済全体を意識すると、大変罪作りな結果になっているように思う。本来はより収益性の高い企業へ労働移動させる絶好の機会だったかもしれないのに、税金を投じて、国がそれを阻む形になってしまった。一方で、国の労働政策では、労働移動も重要なテーマであり「労働移動支援助成金」というものも設けられているわけだが、結果としてアクセルとブレーキを同時に踏むような策となっている。国の政策の合理的ベクトル設定やスピード感に関してその限界が露呈され、誠に残念な結果になってしまったと言わざるを得ない。