企業における権威主義

世界的に権威主義が横行する時代となっている。現在、欠陥があるものの一応「民主主義」と名乗れる状態の国は世界の42.5%にすぎず、残りは強権的か独裁制に近い政治システムということである。こうした権威主義的国家の中でも、大国である中国、ロシア、トルコなどはかなり独裁制に近い状態になっているし、また近代民主主義発祥の国であるアメリカ合衆国においても、トランプ政権は非常に強権的であり、立法や司法を無視し、三権分立を破壊する動きが目立つようになっている。権威主義とはどのような状態か。それは、法支配のタガが外れてしまい、法から外れた為政者の意向に従って、政治が展開されるところのものである。
この考え方を企業経営に当てはめてみよう。経営者のタイプ、性格によるわけだが、一般的な傾向としては、創業者は権威主義的経営をしてしまう可能性は高い。創業期には就業規則などの労務規程も、また事業運営の諸規程もあまり整備されておらず、創業経営者のセルフジャッジで経営が進められていく。いわゆるカリスマといわれる経営者ほどその傾向は強いだろう。創業期にはスピードが重要なために、こうしたこともある意味で当然のことだと言えるかもしれない。その後、企業規模が大きくなるにつれ、様々なルールが整備され(それらのルールには経営者の行動を縛るものも策定される。)、組織システム・ガバナンスが機能しだすと、権威主義的な経営の影は薄れていき、従業員の自発的な行動も部分的に許容される民主的経営が成立していく。通常は、このような流れだと思われる。しかし、そうでないパターンも当然ある。創業期から権威主義は一切ないという組織運営を実現している経営者もいるし、逆に、共和制(株主と経営執行が分離された状態)の企業でも、権威主義的な経営者の出現はありうる。当該コラムの初期のころに書いたが、私がかつて務めていた三越において昭和50年代に、三越事件を起こした岡田茂などはこの類型だ。そう考えると、やはり、経営者の性格が大きな要素となることは間違いない。
アメリカの経営学者、ダグラス・マクレガーが唱えた学説に「X理論・Y理論」というものがある。X理論とは「人(労働者)は本来怠け者なので、仕事させるには厳しく強制することが必要」という考え方で、 一方、Y理論は「人(労働者)は、目標達成のために努力をし、自ら責任をとろうとする自発的なもの」という考え方だ。この学説は、当然ながらY理論で経営しなさいという内容なのだが、権威主義的な経営者は、無意識にここでいうX理論を採用しているものと考えられる。X理論は、常に性悪説に立ち、従業員のことを信じず、「俺のの言う通りにすることが正しい」という認識で、経営がなされる。言葉を換えれば、家父長的、伝統的リーダーシップである。現在の権威主義的な大国のリーダーたちはこれと同じ思考回路だ。トランプやプーチンは、まさにX理論にて国を動かしている。
 マクレガーは、結論的にY理論の方が生産性が高まるといっており、直感的には、正しいことだと思う。しかし、ずっと権威主義的経営をしてきた者に、明日から「Y理論を実践しなさい」といっても、これは性格に起因していることから、かなり難しいことだと言わざるを得ない。Y理論へのシフトは、現実的に言えば、トップ交代のタイミングで検討していくということになるだろう。