終身雇用制度と解雇問題

前回は終身雇用制度に対する捉え方の変遷について申し上げた。時代の空気が大きく変わってきて、現在の世間の価値観としては終身雇用制度というものは相当に形骸化が進んできている。裏を返せば雇用の流動性が高まってきたということである。現在の企業のニーズとしては、フィットする人はできるだけ居てもらいたいが、そうでない人には別の場所に転進をしてもらい、人材の新陳代謝を活発にしたいというところが相当に増えてきた。

ところが、わが国では従業員に辞めてもらうことは、欧米と比較して法的に相当高い壁が存在する。その壁は「解雇権濫用法理」というものである。昭和以降、判例法によりこの法理が確立してきており、今日では労働契約法第16条により法制化されてきている。労働契約法第16条は次の通りである。「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

確かに解雇権を濫用するということは労働者の生活の安定から言っても歓迎できるものではない。経営者の恣意によりくびになるのは不条理極まりない。ただし、この条文の裏を意識してみると、その背景に積み重ねられてきた判例法は、終身雇用制度というものが時代の空気として強かったときのものだということも忘れてはいけない。そう考えると、すべてを鵜呑みにするのはいかがなものだろうか。

雇用の流動性に対する時代要請があるのであれば、それに従った法的対応も必要である。法律に条文化されたのだから、解雇権濫用法理をより厳格に見ていくというのでありば、時代要請に沿わないことになる。労使それぞれの状況を踏まえた冷静で柔軟な対応が求められるであろう。そういった意味で今後の判例をしっかりと注視していかねばならない。