「終身雇用制」「年功序列」「企業内組合」、この3つは我が国労務管理の「3種の神器」と言われてきた。これは、アメリカの経営学者ジェイムズ・アベグレンが「日本的経営」の象徴として採り上げた捉え方であり、この3種の神器があったからこそ、戦後、奇跡の高度経済成長を実現できたとされている。「終身雇用」については、以前、当コラムでも扱ったものだが、実はこの言葉を作ったのも、アベルレンである。
この3種の神器といわれる3つの要素は、お互いに深く関係し合っている。特に「終身雇用制」と「年功序列」は、表裏一体といっていい。終身雇用(といっても現実的には定年まで)を維持するためには、年長の構成員を上位の役割につけることの方が、組織的に安定する。儒教的家父長制を長らく維持してきて、年長者を敬う、大切にするということが美徳とされてきた我が国にとって、自然な価値観として受け入れられるものであった。この点、欧米にはないところであり、アベグレンもそこが特徴的に見えたのであろう。
この価値観を元とした組織作りの源は、江戸時代の幕藩体制下における藩組織と言われている。江戸時代の藩は、「藩=お家」という捉え方でできており、藩主(殿様)が家長であり、重役の家老がいて、その下に藩士たちが仕えるという組織構成である。お殿様は家督相続によるものなので別だが、重役たる家老は、通常、一定の年長者が就く。この「家」に対してご奉公をすることで、俸禄を頂く。各藩士の家は先祖よりその藩・殿様に召抱えられてきたので、原則としては命ある限りその藩にお仕えをする。(当然、隠居はするが、気持ちとしてはそうしたものだったろう)
万が一、何らかの不都合が起きて、藩=家がお取り潰しとなると、その途端に、藩士たちは失業をする。赤穂浪士があのような騒ぎを起こしたのも、正にこうした構造だったからだ。
このような藩組織においては、終身雇用と年功序列は当たり前のものだったわけである。こうした意識、価値観が近代国家になってからも、藩に変わる新しい組織、つまり企業(=会社)というものにに引き継がれたのだ。
では、三種の神器のもうひとつのファクターである企業内組合というものは、こうした価値観とどのような関係性があるのだろうか。これについては次回詳述する。