新型コロナと雇用保険料①

雇用保険料について、言及したいと思う。雇用保険は、失業という保険事故に対して支払われる保険であり、週20時間以上働き、31日以上の継続勤務の見込みのある労働者は全て加入することとなっている。保険料率は毎年政府が決定し4月労働分から適用される。この雇用保険の主な機能は、まさに失業給付であるが、それ以外にも教育訓練給付、高年齢雇用継続給付、育児介護休業給付、就業促進給付など様々な種類の給付があり、また雇用に関連した助成金も雇用保険から支給される。失業等給付に係る掛金としての雇用保険料(失業等給付口)は労使折半なのだが、助成金に関しては、別立てで事業主のみが負担する(雇用安定資金口)仕組みであり、従って雇用保険料は、労働者より事業主が多く支払うこととなっている。

当然ではあるが、雇用保険料率は景気後退により失業者が増えると増加させ、好況により失業者が減少すると低下をするのが基本的なメカニズムだ。この料率を決定するのは既述の通り政府なのだが、官僚組織の常として迅速な決定がなかなか難しい。その際たる例が、2020年の料率だ。2019年では景気安定で失業率が低い状況だったので、料率は0.6%(労使0.3%ずつ)、積立金残高も6兆円超であった。そして迎えた2020年は料率を更に落として0.2%(労使0.1%ずつ)とし、法案を国会に提出したのが2020年2月、成立が3月だった。しかし記憶を呼び起こして頂きたいが、中国武漢で新型コロナが急拡大しているというニュースが報じられたのは2019年12月、またダイヤモンド・プリンセス号による感染騒ぎは2020年1月下旬から2月上旬にかけてであり、その後国内でも相当の経済的ダメージを被るだろうことは、皆が口にしていたところだ。民間組織の意思決定で考えれば容易に料率自体を修正できるタイム感であり、どうしても“なぜ?”と思ってしまう。

この料率については、元に戻すのになんと3年も要した。戻すのを決めたのは昨年(2022年)3月での法改正だが、激変緩和措置として2022年9月までは0.2%、2023年3月までは0.6%、それ以降でようやく法改正通りの0.8%とするなど、参議院選挙を意識したとしか思えない、亀の歩みのようなノロい対応だった。この間、実は、雇用調整助成金の特例措置のため財源は枯渇して大変な火の車になっているのにも関わらずである。

このように、雇用保険料率は政府が国会審議を通して決める仕組みであることから、様々な思惑が入り込み、合理的な内容にならない可能性が高い。収支の意識は遠くへ飛んだままだ。次回には、雇用調整助成金に絡めながらこの問題提起を続けたい。