賃下げについて考える

賃下げについて、安易に実施できると考えている中小企業の経営者は、少なくないのではないか。業績が悪化をして、資金繰りにも窮しているときなどに、従業員の給料を少しの間我慢してもらって、急場を凌ごうと思うのは、経営者として自然の発想かもしれない。しかし、賃下げをするためには、原則として労働者側の合意が必要である。当然、自分の給料が下がることを快く了解する者はまずいないだろう。合意がそう容易でないことは誰でもわかる。一方的に賃下げを伝え、何も反論がないことで「黙示の合意」を得ることができたとするのは以前からよくやられる方法である。ただ、このやり方は、もし訴えられたとき近年の裁判例では敗訴になるケースが増えてきたので今日的にはあまりお奨めできない。

このように賃下げは、経営側にとって、決してたやすい話ではないのである。それなりの覚悟が必要である。でも、企業の業績はみず物であり、経営の責任という範疇を超えて、環境の変化で悪化することだってある。そうした場合に、従業員に賃下げという形で協力を求めていかざるを得ないときもでてこよう。

こうしたときには、その必要性を従業員に訴えていき、合意をとるという作業は、むしろ会社にとっての糧になるものだと考えてみよう。従業員にも賃下げをお願いせざるをえないほどの状態であるという企業の危機感を共有してもらい、ひとりひとりとしっかりとコミュニケーションをとっていくことで、逆に労使の連帯感を強め、再起へ向けての危機バネとしていくのである。このプロセスが成就できれば、「災い転じて福となす」ということもありうるのではないか。