賃金と労働時間

日本の労働法制では、賃金は労働時間を尺度として支払われるということが大前提となっているところがある。たとえば時間外労働をしたときに支払の義務が生じる割増賃金については、時間単位の賃金額に対して2割5分増し(休日労働は3割5分増し)という基準となっているが、これ自体、労働価値を時間単価で捉えているというのが前提条件となっている。また、最低賃金についても、時給、つまり一時間当たり単価を基準として規制をかけている。

たしかに法律では時間という尺度がないと賃金に規制をかけることは現実的に難しいというのは確かにその通りだ。

製造業のラインなどはいわゆる出来高的な仕事については、時間単位で労働価値を測ることが容易である。また、小売業の店頭販売などについても営業している時間をカバーすることがその仕事の目的のひとつとなるので労働価値は時間で見て取れる。こうした職種であれば、労働法の運用に従っても矛盾はきたさない。

しかしながら、このように労働価値を時間で表現できる職種は限られている。多くのサラリーマンが携わっている“事務がベースで企画的なものを混合した職種”では、必ずしも労働価値を時間で測ることはできない。その傾向は、開発、クリエーションなどの出来栄え的な仕事となればなるほど強くなる。結局のところ多くの職種では時間単位で賃金を測るということにどれだけの意味を見出せるかは疑問符をつけざるを得ないのである。ここに日本の労働法制の限界点がある。労働法の枠の中で、どこかしっくりと来ないという感覚を拭い去ることができないのである。ホワイトカラー・エグゼンプションといった案が自民党時代にあったものの、結局のところ立ち消えとなったままだ。この点、労働法制においては今後の大きな検討材料とすべきである。