AIJ投資顧問が年金資産に大きな穴を開けてしまった問題は、わが国の年金制度を再考する契機なのではないかと想わざるをえない。AIJ投資顧問が出した損失額は1582億円。このうち厚生年金基金が国の厚生年金代行部分において穴を開ける見通しの額は1100億円である。とてつもない巨額だ。しかし、実は今回のAIJ問題が発覚する前の昨年3月末の時点で、既に全国の厚生年金基金で代行部分に必要な積立金の不足額は6300億円にものぼっていた。つまりAIJ問題が無くても既に公的年金制度において巨大な穴があいていたということである。国の代行部分に対するこれらの損失額は理屈としては企業が穴埋めをすることとなる。しかしながら共同設立型の基金については基本的にその多くが中小企業の集まりであるため、穴埋めをするだけの体力を持たないところも多い。そうなると最終的には国が何らかの形で補填をしなければならないが、そうなるとモラルハザードに関わることとなる。
そもそも厚生年金基金が厚生年金の代行部分を運用できるシステムは、厚生年金基金が生まれた高度経済成長期に設けられたものである。金利の高かった時代には、リスクを掛けずとも一定の運用収益が期待できたので、まさか代行部分に穴を開けるということなど想像だにしなかった。しかし、ゼロ金利時代の現状の中で一定の収益を目指すには、リスクを背負った形での運用になり、元本割れ=積立金の欠損も生じる可能性があるのは当然のこととなる。代行部分も含めて厚生年金は、本来国が将来の給付を完全な形で約束しているところであり、民間の基金が不安定な運用をしていくことを容認することが果たして本当に正しい姿なのか甚だ疑問である。
厚生年金基金は従来の役割を全うできないところが急増している。根本的にそのあり方が問い直されるべき時期に来ているのではなかろうか。