βエンドロフィンを分泌する経営組織

一昔以上前、脳内革命という本がベストセラーになった。この本は、「西洋医学的対症療法のみで健康を勝ち得ることは限界がある。東洋医学的アプローチによりはじめて心身ともに本当の意味で健康になることができる」という趣旨のものであるが、この本の中に「人間は自分自身をポジティブにしていくとβエンドロフィンという物質が脳内に多量に分泌される。これにより心身の健全化が促進される。逆に精神的にストレスが高まると体内にアドレナリン、活性酸素が出てきて身体および精神の健康状態に悪影響を及ぼす」ということが書かれてあった。科学的に言ってその真偽がどうなのか私には良く分からないが、とてもイメージがしやすかったのは事実で、ここでは仮にこの本に書かれてあったことを前提に話を進める。

βエンドロフィンは、マズローの欲求5段階説でいうところの最終段階である自己実現欲求を満足させたとき分泌は極限に達するそうである。会社組織においても構成員のできるだけ多くが自己実現欲求を満たせるような環境を作り出すことができれば、それにより従業員のモチベーションを圧倒的に向上させることで組織が活性化し、パフォーマンスの最大化を図ることができるのではないだろうか。これに加えて従業員をより健康にすることができると「脳内革命」では言っている。実現すれば、こんなに素晴らしいことはない。簡単なことではないが、βエンドロフィン分泌を活性させるための組織作りは、経営者および人事担当にとってひとつの大きな使命ではないだろうか。

それでは、どのようなことをすれば、従業員のβエンドロフィンを高めることが可能となるのかを考えてみる。自己実現欲求は、自分の判断で、自分の手によりことを進めていき、その結果が自分にフィードバックされ、自分によって満足のできることであると確認できた場合に、満たすことができる。組織内でこうしたことを実現するときのキーワードは「権限委譲」である。下の職位の者に対して、一度ミッションを与えたら、結果を出すまで任せきる。途中での指示は一切なしというルールにて断行するのである。これをすることはとても勇気のいることであるが、長い目で見るとβエンドロフィンを分泌する経営組織を作ることとなる。そして権限委譲がされた中で、会社もその行動に対して適切に評価をしていくのである。もちろんここで育成的指導はしていくわけだが、このときに減点主義ではなく加点主義評価にて部下を見てやれば、彼の行動はよりポジティブになっていくはずだ。こうした経営スタンスは、大企業ではなかなか作りづらいところもあるだろうが、それほど大きくない経営者が目の行き届く範囲内の規模の組織であれば、経営者の意志次第で実現できるのではないかと思う。