ゲマインシャフトとゲゼルシャフト②

起業したばかりのベンチャー企業は、熱い思いをもった創業者と、その思いに賛同した仲間によって構成されていることが多い。当然組織としての目的があり、それに向かって集まったのだからゲゼルシャフト=機能体組織であることに違いないが、こうした組織では往々にして「みんなの会社」という意識の下、運営されることがある。社長も組織の代表ではあるが、ものごとは集団的合意に基づき決めていくことが多い。みんな仲間であり、誰か一人でも傷つくようなことがあってはいけない。そのような全員のモチベーションが組織にエネルギーを与えて成長を果たしていくのである。こうした状態の組織は、ゲマインシャフトとしての要素をかなり有していることとなる。

ところが、構成員が増えていき、数十名単位の規模になってくると組織を維持していくためにはゲマインシャフトとしての要素を徐々に排除していかなければならなくなる。つまり仲間意識だけではやってられないということだ。(この辺りについては、すでに「古い組織と新しい組織」でも述べたことである。)役割分担を明確にし、組織内に厳格なルールを作っていき、機能体組織としての体を整えていくことが求められるようになる。これをしていかないと必ず成長が鈍化していくこととなる。そうした踊り場に入ってしまったときには、経営組織戦略上、「ゲゼルシャフト化」が取組の中心課題になっていくといっても過言ではない。

しかしながら、ゲマインシャフト=共同体組織としての要素をすべて削り去り創業期の仲間が共有した価値観そのものを失うようなことがあっては本末転倒である。ゲマインシャフト的雰囲気で組織を活性できるところは残すべきだ。たとえば社内のコミュニケーションのあり方などだ。事例をひとつあげてみよう。我が国のベンチャー上がりの大企業の代表格といえばホンダであるが、ホンダは大企業になってからも役員の大部屋制度(個々の役員室を持たないこと)を堅持したというのは有名な話だ。つまり、役員間あるいは役員と一般従業員の間でコミュニケーション量をしっかりと確保することで、創業期のゲマインシャフト的雰囲気を維持したわけだ。

そういった意味ではゲゼルシャフト化を図る中で、ゲマインシャフトとしての要素中、“必要な部分”と“不要な部分”を識別していきながら、必要と判断したものは無下にしないという意識をトップがもつのは有益なことである。