三種の神器である「終身雇用制」「年功序列」「企業内組合」は、賃金の支払い方という側面でも、互いに密接な関連性がある。欧米との比較で考えるとわかりやすい。欧米では、終身雇用や年功序列という概念が薄いため、原則として賃金は、職務価値に応じて支払われる。つまり、年齢が上でも下でも、職務価値が同等であれば、賃金も同額となる。
それに対して、我が国では、終身雇用を前提としているので、基本的には職務価値とは連動をさせずに、賃金の支払い方を決めている。終身雇用を前提とした従来型の企業では、若い時分には、パフォーマンスに比して賃金は低く抑えておき、逆に年代が中高齢になるにつれ、パフォーマンスに比べても高い賃金額を支払う。賃金カーブは、加齢に従って右肩上がりの逓増をしていくが、パフォーマンス曲線は、概ね30代がピークで、その後40代、50代になるに従って、低下をしていくのが一般的な労働者の有り様だろう。労働者としては、加齢に伴い、元を取る、逆に企業から言えば、労働者が若い頃に借りをしておき、中高齢になってから返していくという構図だ。
このような支払いのメカニズムを持つことで、生涯を通して、コスト(賃金)とパフォーマンスを、“ツーペイ”させていく。そして、これが年功序列という秩序維持にも繋がることになるわけである。年功により中高年齢層の者たちが、高い処遇を受ける。若い世代としては、自分たちも、一定の年齢になったら、高い処遇を得られるという期待を持つことができ、若いうちには、多少処遇が低くても、しっかりと頑張ることができる。このようにして組織の調和が保たれる。
企業内組合も、こうした賃金カーブは積極的に擁護することになる。なぜなら、企業内組合における組合員は、同一企業で終身雇用されることを前提とした者たちであり、加齢に伴って上昇する賃金カーブを維持できない場合、彼らは完全に損をすることになるからである。従って、企業内組合は、このような賃金カーブを維持することを目的として、労働条件交渉や生産性向上の提言を経営に対して行っていくことになる。
このような賃金カーブは、生活給的な側面からもフィットするものであった。世帯を形成していく過程で膨らんでいく生計費を吸収できる賃金カーブを実現することで、従業員全体が、納得性の高いものとして捉えていったのである。ただし、これは経済成長をしていくことが大前提であった。それが崩れるとき、これらの関係性も綻びを見せることになる。