前項で非正規労働者割合が大きくなることは、3種の神器を形骸化させる要因である旨述べたが、そこでは3種の神器のうち企業内組合に関連して特には触れなかったので、ここで改めてそのことについて取り扱いたいと思う。
非正規雇用形態の中心は、有期雇用フルタイマー、もしくは有期雇用パートタイマーである。これら有期フルタイマーおよびパートタイマーを組合員組織化していくということについては、連合も以前より組織目標として掲げている。しかし、現状では遅々として進んでいない。その最大の理由は、非正規労働者に対して、組合員化のモチベーションを伝えられない、つまり、彼らが組合員になることでどのようなメリットが享受できるかをしっかりと説明できていないことに他ならない。組合員になるといことは、組合費を支払うということであるわけだから、それと応分、あるいはそれ以上の役得がなければ、好き好んで組合員になろうとは思うはずもない。筆者自身、もう15年以上前であるが、労組幹部時代にパート組織化に携わった経験がある。当然、パートタイマーに組合員になってもらう説得材料を整理し理論武装を試みたが、自分自身を納得させるようなロジックを組むことが出来なかったことを記憶している。
労働組合の組合員になることのメリットは、煎じ詰めて言えば、「雇用維持」と「労働条件向上」の二点である。しかし、有期雇用契約である彼らに対して「雇用維持」は軽々には保証できない。残るは労働条件向上であるが、時給払いであるパートタイマーにとっての労働条件の大半は賃金であるから、彼らに賃金向上を約することが組合員化の大きなファクターになることは言うまでもない。しかし、これも突き詰めていくと同一労働である正社員との比較論が出てくるので、結局は年功賃金構造の中にいる正社員との間で利害衝突が生じることになる。つまり、正社員と非正規労働者の両者をともに組合員とした場合、同一組織の組合員間でトレードオフの関係が出てくることになるのだ。
従って、現行の年功賃金を前提とした正社員を主力組合員とした企業内組合では、有期フルタイマーおよびパートタイマーを組織化することは自家撞着を起こすことになりかねない。
非正規雇用率が増大する昨今、連合はじめ、わが国の主たる企業内労組は、何らかの方策でこの課題を解決しない限り、組合組織率の低下に歯止めがけることができないのは自明の理である。今まさに企業内組合は、大きな曲がり角に立たされている。