五代友厚の評価変遷から学ぶべきもの

昨今、五代友厚(才助)の人気ぶりには目を見張るものがある。2015年に放映されたNHK朝の連続テレビ小説「あさが来た」でディーンフジオカが演じて大きくクローズアップされ、2021年の大河ドラマ「青天を衝け」でも引き続きディーンフジオカが五代の役を担い、今では好感を持てる幕末維新のキャラクターの一人になったと言ってよい。しかしながら、五代友厚ほど時代の流れで、その印象が大きく変わった人物も珍しい。
自分自身が高校時代の日本史で記憶した五代友厚は、まさに悪の権化という印象であった。開拓使官有物払い下げ事件では「黒田清隆と結託して私腹を肥やした政商」ということをイメージ的に認識していて、“児玉誉士夫”みなたな人物?と思っていた。自己弁護するわけではないが、教科書には五代に関しては払い下げ事件に関することしか出てこないので、こう捉えても無理ないことだったと思う。
「あさが来た」で脚光を浴びたので、その人物像を具に調べると、悪い印象とは真逆の実績であったので、大変に驚いた。何十年も悪い印象のまま来てしまって本人に申し訳ない思いにすらなった。
更に、最近の研究では、悪い印象を植え付けられた「開拓使官有物払い下げ事件」自体にも無関係だった可能性が高まってきているということが、朝日新聞に載っていた。どうも当時の新聞社説に五代が関与した旨が掲載されたのを五代自身が弁明しなかったので、後の歴史家が、そのことを決めつけて論文に発表したのが学会の定説になってしまい、その結果、教科書にも載るようになったということだ。

我々は、このことから人事評価を考える上で二つの教訓を学ぶことができるだろう。一つは、たった一つの事実要素を見て、人物全体の評価をすることの危険性である。これはまさに評価の「ハロー効果」そのものである。ハロー効果とは、ある要素がとても「優秀(劣悪)」であるという点が過剰に評価され、結果的に全体像が正しい評価からズレてしまう現象であり、人事評価をする上では良く起こりうる認知バイアスである。
もう一つは、ある事柄が真実でないにもかかわらず真実と思いこみ、それを評価につなげてしまうということである。人事評価は、その対象となる行動や言動などの事実関係を客観的に認識し、不確定なものは排除した上で実施しなければならない。
人事評価は、評価する者のスタンスが重要であり、正しいスタンスを身につけるには、いろいろなイメージトレーニングが大切となるが、本件はまさにそうした観点からも肝に銘じるべきエピソードだといえよう。
ちなみに、2023年以降の歴史教科書では、記述の訂正がされるようである。五代も草葉の陰でさぞ喜んでいることであろう。